慰謝料の請求には、時間の制限がある
不貞行為(浮気)によって精神的な苦痛を受けたときは、慰謝料を請求できる場合がある。ただし、請求できる期間には限りがある。
民法724条は、不法行為による損害賠償の請求権は、次の場合に時効によって消滅すると定めている。
- 被害者が、損害および加害者を知った時から3年間行使しないとき。
- 不法行為の時から20年間行使しないとき。
「3年」の起算点は、浮気があった日ではない。「損害と加害者を知った時」である。何を、いつ知ったとみなされるかは、事案によって判断が分かれる。気づいてから、時間が経ってしまっているときは、早めに専門家に相談してほしい。
この記事では、慰謝料を請求できる条件、請求できる相手、時効、手続きの流れを、条文を基に整理する。
出典: 民法(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)。2026年10月15日確認。
1. 慰謝料の法的な根拠
慰謝料の根拠になるのは、不法行為による損害賠償の規定である。
- 故意または過失によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(民法709条)。
- この責任を負う者は、財産以外の損害(精神的な苦痛)に対しても、賠償をしなければならない(同710条)。
不貞行為は、配偶者としての権利(平穏な婚姻生活を送る権利)を侵害する不法行為に当たり得る、と考えられている。
2. 請求できる条件
一般に、請求が認められるかどうかは、次の点が検討される。
- 不貞行為があったか: 一般に、配偶者以外の人と、自由な意思で、性的な関係を持つことを指す。メッセージのやり取りや、食事に行っただけでは、通常は不貞行為とまでは言えないことが多い。
- 婚姻関係が、すでに破綻していなかったか: 不貞行為の時点で、婚姻関係がすでに破綻していた場合は、慰謝料が認められないことがある。
- 相手に、故意・過失があったか: たとえば、不貞の相手が、既婚者であることを知らず、知らないことに過失もなかった場合は、責任が認められないことがある。
- 請求権が時効にかかっていないか: 上記の3年・20年。
証拠について
請求する側は、不貞行為を立証する責任を負う。メッセージ、写真、ホテルの領収書、クレジットカードの明細など、不貞の事実を推測させる材料を、積み重ねる必要がある。証拠は、違法な方法で入手しないことが前提である(無断でのスマホ・SNSの閲覧などは、問題になり得る)。
3. 誰に請求できるのか
配偶者に請求できる
不貞行為をした配偶者に、慰謝料を請求できる。
不貞の相手にも請求できる
不貞の相手にも、慰謝料を請求できる場合がある。配偶者と不貞の相手は、共同して不法行為をしたと評価されるためである。
ただし、離婚に至ったことを理由とする慰謝料を、不貞の相手に請求することについては、最高裁判所の判決(平成31年2月19日、平成29年(受)第1456号、民集73巻2号)が、「特段の事情がない限り、請求できない」と判断している。離婚そのものによる精神的な苦痛は、本来、離婚の原因をつくった配偶者との間の問題であるためである。不貞行為そのものによる精神的な苦痛への慰謝料は、不貞の相手に請求できる余地がある。
どちらに、どの名目で請求するかは、事案によって異なる。弁護士に相談して決めるのが確実である。
4. 金額はどう決まるのか
慰謝料の金額に、決まった計算式はない。一般に、次のような事情が、総合的に考慮される。
- 婚姻期間の長さ
- 不貞の期間・回数・内容
- 不貞によって、婚姻関係がどの程度悪化したか(離婚に至ったか、別居・修復か)
- 子の有無・年齢
- 不貞をした側の責任の程度(態度、反省、嘘など)
- 請求する側の事情
インターネットなどで目にする「相場」は、これらの事情で大きく変わる。自分のケースが、その範囲に入るとは限らない。
5. 時効を止めたいとき
時効が迫っているときは、時効の完成を猶予する方法がある。
- 催告: 内容証明郵便などで請求の意思を示すと、その時から6か月を経過するまで、時効は完成しない(民法150条1項)。ただし、催告を重ねても、再度の催告には、猶予の効力はない(同条2項)。6か月の間に、次の手続きに進む必要がある。
- 裁判上の請求: 訴えの提起などによって、時効の完成が猶予され、判決が確定すれば、時効が更新される(民法147条)。
なお、人の生命・身体を害する不法行為の場合は、3年が5年になる(民法724条の2)。浮気による慰謝料は、通常は、この特則の対象とは考えられていない。
6. 手続きの流れ
- 証拠の整理: 事実を、日付ごとに整理する。
- 話し合い(示談): 請求の内容・金額・支払い方法を、話し合う。合意したら、示談書にまとめる。
- 内容証明郵便: 請求の意思を、書面で示す。時効の猶予の効果もある。
- 調停・訴訟: 話し合いがまとまらなければ、裁判所の手続きに進む。離婚を伴う場合は、まず家庭裁判所の調停を経る必要がある(調停前置、家事事件手続法257条)。
7. 注意しておきたいこと
- 二重取りはできない。 配偶者と不貞の相手の両方に請求しても、受け取れる総額は、損害の範囲に限られる。
- 請求が、脅迫や恐喝にならないように注意する。相手を脅して金銭を要求する行為は、犯罪になり得る。
- 離婚の条件と、慰謝料は、別の問題。 慰謝料・財産分与・養育費は、それぞれ整理して考える。→ 財産分与・年金分割の請求期限(離婚日で2年か5年か)
相談先
- 弁護士・法テラス: 請求できるかどうか、金額の見通し、時効の確認。
- 各地の弁護士会の相談窓口。
- 家庭裁判所: 調停の手続きの案内。
まとめ
- 慰謝料請求の根拠は、不法行為(民法709条・710条)。
- 時効は、「損害および加害者を知った時」から3年、不法行為の時から20年(同724条)。
- 配偶者にも、不貞の相手にも請求できる場合がある。ただし、離婚に至ったことを理由とする慰謝料は、不貞の相手には、原則として請求できない(最高裁平成31年2月19日判決)。
- 金額に決まった式はなく、事情によって大きく変わる。
- 時効が迫っているときは、催告(6か月の猶予)と、その間の次の手続きが重要。
※本記事は一般的な情報であり、個別の事案への助言ではありません。この記事は、監修者の阿部泰尚が内容を確認しています(監修範囲は監修者紹介をご覧ください)。