産後は、夫婦の関係が変わりやすい時期である
赤ちゃんが生まれた直後の数か月は、夫婦にとって、人生でもっとも忙しく、不安定な時期の1つである。この時期に、夫婦の関係が、急に冷えたと感じる人は少なくない。「産後クライシス」と呼ばれることもある。
原因は、どちらかの愛情が冷めたからとは限らない。産後の生活の変化と、睡眠不足と、負担の偏りが、重なっていることが多い。つまり、原因の多くは、気持ちの問題というより、状況の問題である。
この記事では、産後に夫婦関係が揺れやすい理由と、対策、そして、父親が使える産後パパ育休(出生時育児休業)を整理する。
出典: 母子保健法(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000141)、育児・介護休業法(同 https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000076)。2026年10月16日確認。
1. なぜ産後に、夫婦関係が揺れやすいのか
① 睡眠不足と、体の回復
産後の母親は、出産で体力を消耗し、回復の途中にある。そのうえで、数時間おきの授乳・夜泣きに対応する。睡眠不足は、判断力と感情のコントロールに、大きく影響する。ささいなことで、いらだったり、涙が出たりすることがある。
② ホルモンの変化
産後は、ホルモンの状態が大きく変化する。気分が不安定になりやすい時期である。これは、本人の努力でコントロールできるものではない。
③ 生活の激変と、負担の偏り
育児と家事の量が、一気に増える。多くの家庭では、母親に負担が偏りやすい。「何をしてよいか分からない」「言われないと動けない」という父親と、「言わなければ分かってくれない」「頼むこと自体が負担」という母親の間で、すれ違いが生じる。
④ 夫婦の時間が消える
育児に追われて、夫婦で話す時間、2人で過ごす時間が、なくなる。会話が、「事務連絡」だけになる。
⑤ 父親の孤立
父親にも、「何をすればよいか分からない」「仕事と家庭の板挟み」「頼られていないと感じる」という、悩みがある。孤立しているのは、母親だけではない。
2. 産後にやっておきたい5つの対策
① 出産前に、産後の分担を話し合っておく
出産前に、産後の最初の数週間の、家事・育児の分担を、決めておく。産後に入ってからでは、話し合う余力がない。
② 母親の睡眠を、最優先にする
授乳以外の夜の対応を、父親が分担する、ミルクを使って、交代で寝るなど、母親が、まとまって眠れる時間をつくる。
③ 「名前のない家事」を、見える化する
産後は、考えて、手配する作業(管理)が、急増する。何を誰が考えているかを、見える化する。→ 家事・育児の分担を「見える化」する方法
④ 感謝と、短い会話を、毎日の習慣にする
長い話し合いが無理でも、1日に1回、短く、気持ちを伝え合う習慣を持つ。「ありがとう」「今日は、大変だった」だけでもよい。
⑤ 外部の支援を、前提にする
夫婦だけで乗り切ろうとしない。→ ワンオペ育児がしんどいとき
3. 父親が使える制度:産後パパ育休(出生時育児休業)
父親が、産後の早い時期に、育児に関わるための制度が、法律に定められている。
制度の内容
出生時育児休業は、子の出生の日から8週間を経過する日の翌日までの期間内に、4週間以内の期間を定めて取得できる休業である(育児・介護休業法9条の2)。「産後パパ育休」とも呼ばれる。
- 対象:その子を養育する労働者(主に、父親)。
- 申出先:事業主(勤務先)。
- 回数:原則として、2回に分けて取得できる。取得できる日数は、合計で28日まで。
取るときのポイント
- 早めに、勤務先に申し出る。 申出の期限や手続きは、勤務先の規則と、法令の定めがある。
- 取得の日数・時期は、夫婦で相談して決める。 母親の退院直後〜産後の数週間は、特に、父親の関わりが大きい。
- 給付金・社会保険料の取り扱いなどの、金銭面の制度は、変更されることがあるため、必ず、公式の情報(厚生労働省、勤務先、ハローワーク)で確認する。
- 取得しにくい雰囲気がある場合は、勤務先の人事、または、都道府県労働局(雇用環境・均等部門)に相談できる。
休業を取ることは、家事・育児を「手伝う」ことではなく、共同で担うための準備期間である。
4. 産後の心の不調に気づいたら
産後は、気分が落ち込む・不安が強い・眠れない・食べられないなどの状態が、続くことがある。次のような場合は、ひとりで抱えず、医療機関や、公的な窓口に相談してほしい。
- 気分の落ち込みや、強い不安が、2週間以上続いている。
- 赤ちゃんの世話が、できないと感じる。
- 自分や赤ちゃんを、傷つけてしまいそうだと感じる。
相談先:
- 産婦人科・助産師・小児科:産後健診や、育児相談の機会。
- 市区町村の母子保健の窓口、こども家庭センター:産後の相談、産後ケア事業の案内。
- 産後ケア事業:出産後1年を経過しない女性と乳児を対象に、心身のケア・育児の相談などを行う事業。市町村が行うよう努めることが、法律で定められている(母子保健法17条の2)。利用できるかは、自治体による。
- 緊急のとき: 警察(110番)、救急(119番)。
5. 夫婦の関係を、立て直すために
産後の関係の悪化は、一時的なものであることが多い。子どもが成長し、生活のリズムが整うにつれて、関係が戻る夫婦もいる。ただし、そのまま放置すると、不信感が積み重なって、固定することもある。
- 夫婦で、いまの状況を、数字と事実で共有する。→ 子育て負担バランス
- お金の見通しを、夫婦で共有する。→ 夫婦で固定費を見直す順番
- 関係の悪化が深刻で、離婚を考え始めたときは、焦らず、情報を整理する。→ 夫婦の悩み、どこから整理するか
まとめ
- 産後に夫婦関係が揺れやすいのは、睡眠不足、ホルモンの変化、負担の偏り、夫婦の時間の消失が重なるため。気持ちの問題だけではない。
- 対策は、出産前の話し合い、母親の睡眠の確保、見える化、毎日の短い会話、外部の支援。
- 父親は、産後パパ育休(出生時育児休業)で、出生後8週間以内に、4週間以内(2回に分けて合計28日まで)休業できる(育児・介護休業法9条の2)。金銭面の制度は、公式で確認する。
- 気分の落ち込みや不安が続くときは、医療機関や、市区町村の窓口に相談する。
※本記事は一般的な情報であり、個別の事案への助言・医療上の診断ではありません。この記事は、監修者の阿部泰尚が内容を確認しています(監修範囲は監修者紹介をご覧ください)。